Survey Note of the Nil(1874)~ニール号調査手記~

ニール号とは

1864年(明治3年)、南フランスのラ・セイヌで建造されたメッサージェリ・マリティム社所属の客船で全長104m、排水量1714tの鉄製蒸気機関を持つ3本マストの鉄製帆船です。
1874年(明治7年)3月20日夜間、静岡県南伊豆町入間沖にて暴風雨により座礁・沈没しました。その際、日本が初公式参加したウィーン万国博覧会の展示美術品や購入された西洋美術品を香港から日本の横浜まで運送する船舶としての役割を担っていました。事故当時、約90名の乗組員が乗船していましたが、生存者は4名のみで86名の乗組員は積み荷及び船体と共に海底に沈んでしまいました。犠牲になった86名の遺体は、臨済宗海蔵寺境内の共同墓地に国籍別、あるいは国籍不明者別に区画が設定され埋葬されました。1876年(明治9年)には仏国公使館によって高さ6mのニール号遭難者慰霊碑が建設され現在も異国の雰囲気を感じさせながら建っています。

   
(左:実際のニール号の写真 右:引き揚げ遺物1)※クリック拡大

調査経過

主に2004年から2007年にかけて伊豆西南海岸沖海底遺跡(沈船)調査研究会(当時跡見学園荒木伸介教授・当時東海大学根元謙次教授)によって調査が行われました。その結果2005年には、ニール号沈没地点が静岡県の埋蔵文化財包蔵地として登録されました。2007年度以降は数年間調査は行われなかったが、2017年に東海大学によって調査が再開されました。以下の表が年代別に行われてきた調査内容になります。

調査年 内容 位置・範囲 成果
2004年
海底地形探査
吉田海岸沖(船体付近)
海底地形図作成
潜水調査
吉田海岸沖(船体付近)
船体位置情報取得
音波探査
吉田海岸沖(船体付近)
地層状態確認
潜水調査
吉田海岸沖(船体付近)
船体状態確認
磁気探査
吉田海岸沖(船体付近)
強反射域確認
2005年
音波探査
吉田海岸沖(船体付近)
2005年度版海底地形図作成
潜水調査
吉田海岸沖(船体付近)
強反射域の地層分析
試料採集
吉田海岸沖(船体付近)
船体と思われるものの確認
2006年
1次調査
三ツ石埼
2006年度版海底地形図作成
2次調査
三ツ石埼
海底突起物の確認
2007年
1次調査
吉田海岸沖(錨付近)
2007年度版海底地形図作成
2次調査
吉田海岸沖(錨付近)
2007年度版海底地形図作成
3次調査
吉田海岸沖(錨付近)
2007年度版海底地形図作成
4次調査
吉田海岸沖(錨付近)
2007年度版海底地形図作成
5次調査
吉田海岸沖(錨付近)
錨発見
6次調査
吉田海岸沖(錨付近)
番組放送
7次調査
吉田海岸沖(錨付近)
船体位置確認
2017年
写真実測
吉田海岸沖(錨付近)
錨の3Dモデルの作成

2019年度調査目的

2019年度調査では、2007年度調査で発見されたAnchor1、Anchor2を研究対象として、海底ミュージアム化の検討とニール号とストックアンカーの関係性を明確にすることを目的に、写真実測、3Dモデル・平面図・海底地形図の作成、錨の計測を行いました。
 
(左:Anchor1 右:Anchor2)※クリック拡大

2019年度調査概要

<日程>
2019年8月1日~2日
<調査メンバー>
木村淳       白子昌樹
鉄多加志     山田虎彦
内田みな           江川暢人
矢田晃士郎      埋田陵雅
太田圭亮           山石裕紀
渋谷怜央          中北達也
松下直幸

写真実測は水中にある遺物をデータとして記録するために行いました。専用のマーカーと一緒に撮影することで3Dモデルを作成することができます。

(実際の写真実測風景)※クリック拡大
3Dモデルは写真実測で撮影した写真をパソコン専用アプリで処理して作成します。モデルを作ることで陸上にいながら遺物を360°観察することができるようになります。

平面図はモデルでは分かりにくい細かな凹凸や輪郭などを確認するために作成しました。また、これまでニール号錨の平面図は作成されてこなかったので、考古学的価値もあります。通常は写真から平面図を作成しますが、2019年度調査ではモデルから作成しました。

錨の計測は調査報告書などに収めるために行います。計測物に対して複数の計測値を取り、方眼紙に落とし込むことで図化することができます。

(実際の計測風景)※クリック拡大

海底地形図は、2007年度調査時に作成がされていたが等深線の数が多すぎて錨と海底地形の位置関係が把握しにくかったため2007年の海底地形図を基に新たな海底地形図の作成を行いました。

2019年度調査結果

調査の結果、Anchor1・Anchor2ともに3Dモデル・平面図の作成が完成しました。Anchor2に関しては平面図より錨を把握することが困難であったため、横からの図も作成しました。
<Anchor1>
   
(左:Anchor1 3Dモデル 右:Anchor1 平面図)※クリック拡大
<Anchor2>
 
(右:Anchor2 3Dモデル 左:Anchor2 平面図)※クリック拡大

(Anchor2横からの図)※クリック拡大

実測は、調査時間の関係上Anchor2のみしか計測することができなかった。
(Anchor2 実測結果)※クリック拡大

海底地形図の作成は、基の海底地形図において等深線及び岩礁の数が多く明確に海底地形図を把握することは困難であったため、潜水調査を行う際ポイントとなる地形に注目し作業を進めました。その結果、基の海底地形図と比べると簡易的ではあるが、限られた作業時間で調査を行う潜水調査で位置を確認する際役に立つ海底地形図を作ることができました。

(2019年度版海底地形図)※クリック拡大

今後の展望

2019年度調査の結果、ニール号とストックアンカーの関係性は断定する事はできず、海底ミュージアム化の検討に関しても現段階では不可能であるという結論に至りました。今回の調査では、大きな発見をすることは出来なかったが調査の過程で3Dモデルや平面図を完成させることができました。今後、ニール号の情報を集めていくことで関係性の断定や海底ミュージアム化が可能になると考えています。

ギャラリー・関連写真